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インピンジメント症候群impingement syndromeとその原因&治療を考える

 肩の問題としてわりと取り上げられることの多いインピンジメント症候群impingement syndrome。ここではその原因(発生メカニズム)から治療までを考えてみようと思います。

 まずインピンジメント症候群というのが何かというお話なのですが、インピンジメントというのは衝突を意味します。

インピンジメント症候群impingement syndromeとその原因&治療を考える 左には肩関節(肩甲上腕関節)の外転運動を後方から見た絵が載せてあるのですが、こうして上腕骨を挙上する際、上腕骨の大結節部が、肩甲骨の肩峰から烏口突起にかけての領域(烏口肩峰アーチ)に衝突(インピンジメント)してしまうことがあります。

 するとその間に位置する上腕二頭筋長頭腱や棘上筋の腱、そして滑液包(肩峰下包もしくは三角筋下包)らの構造がそこに挟まれる形となり、それが痛み(炎症)を起こしてしまうことがあります。そうしたインピンジメントによって起こった問題(痛み)を総称してインピンジメント症候群と言っています。

 具体的に何を痛めているのかは整形学的検査法などを用いることによって鑑別することができるのですが、こうした場合に整形などに行きますと、それこそインピンジメント症候群と診断されることもありますが、具体的に痛みを起こしている部分を取り上げ、上腕二頭筋長頭腱炎や棘上筋腱炎、そして滑液包炎などと診断されることもあるわけで、こうしたことが複数の医療機関で受診した際に「診断名が異なる」という現状を生むわけですね。

 ちなみに上腕二頭筋長頭腱炎や棘上筋腱炎、そして滑液包炎などと診断された場合、その原因としてインピンジメントを考えることもできるわけで、全くややこしい感じです。

 さて、少し脱線しましたが次にその原因にまいりましょう。
 インピンジメント症候群の原因としては、分かりやすいところを取り上げるなら肩関節(肩甲上腕関節)や肩甲骨の運動異常が挙げられるかと思います。

インピンジメント症候群impingement syndromeとその原因&治療を考える 肩関節の運動異常については外転運動を例に考えてみますと、肩を外転する際、肩甲骨に対して上腕骨(上腕骨頭部)は上方に転がりrollながら下方に滑るslide運動をします。この運動のバランスが何らかの問題により破綻し、上腕骨がより上方へ引き上げられると、これがインピンジメントの原因となります。

 具体的な例としてはローテーターカフ筋と三角筋のバランス異常や関節の亜脱臼などが挙げられます。
 前者の場合、これは左の絵を参考にしていただきたいのですが、ローテーターカフ筋は肩関節が運動する際、上腕骨頭を肩甲骨関節窩に押し当て、その運動を安定させる(運動の支点をつくる)働きをもちます。

 対して三角筋は上腕骨の引き上げから肩の外転作用をもつのですが、ローテーターカフ筋の筋力(機能)低下により関節が不安定になったり、またはローテーターカフ筋の一つである棘上筋の筋力(機能)低下により、肩の外転が正しくできなくなったりしますと、三角筋の上腕骨引き上げ作用が強くなり、これがインピンジメントの原因となります。

 関節の亜脱臼に関しては、それにより関節が不安定となり運動の支点がつくりにくくなるため、これがインピンジメントの原因になると考えられます。

 肩甲骨の運動異常については、これも肩の外転運動を例に説明をするのですが、実際「肩の外転(挙上)」と言ってもそれには必ず、肩甲骨の運動が関与しています。

インピンジメント症候群impingement syndromeとその原因&治療を考える 少し専門的な話になるのですが肩の外転可動域を180度とした場合、肩関節(肩甲上腕関節)が行っているのは120度程でしかありません。では残りの60度を何処が行っているかといえば、それが肩甲骨なのです。

 これは肩甲上腕リズムScapulohumeral Rhythmとして説明されていることなのですが、例えば何らかの理由により肩甲骨が運動異常(可動制限)を起こしますと、それを補うために肩甲上腕関節には過剰な運動が起こります。そしてこの代償的な運動がインピンジメントの原因となるのです。

 と、こんなところがインピンジメント症候群の原因だと考えられます。
 では次に、その鑑別法を考えてみたいと思います。

 先にも述べましたが、インピンジメントによって痛みを起こす構造には上腕二頭筋長頭腱や棘上筋腱、そして滑液包があります。まず上腕二頭筋長頭腱や棘上筋腱を痛めている場合なのですが、筋肉が痛みの原因になっているのかを確認する場合には、触診と自動運動検査(筋肉を収縮させる検査)、そしてストレッチなどが有効です。

 触診は痛みを起こしている部位に対して圧を加えたりなんかしまして、痛みの発生もしくは痛みの悪化が確認できれば陽性と考えます。

 自動運動検査は、上腕二頭筋長頭腱でしたらその作用である「肘を曲げる(屈曲)」運動や「前腕を外に捻る(回外)」運動を、棘上筋であれば「肩の下垂位から30度程までの外転」運動などを患者様にしていただき、それに伴う痛みの発生もしくは悪化があるかでそれを判断します。
 もしこうした方法で痛みの発生や悪化が分かりにくい時は、ドクターが患者様の腕などを固定し、その運動に抵抗を加えることで、痛みの発生をより明確にすることができます。

インピンジメント症候群impingement syndromeとその原因&治療を考える 滑液包に関しては、滑液包というものには収縮機能がありませんから、自動運動検査を用いることはできません。ですのでこれは主に触診を用いてその異常を鑑別することになります。ちなみに整形学的検査法としては、肩峰下プッシュボタン徴候Subacromiai Push-Button SignやドーバンテストDawbarn’s Testなどがそれにあたります。

 最後にストレッチですが、これは筋肉と、ここでは取り上げられてはいませんが靱帯に対して有効な検査だと考えてください。対象となる構造にストレッチを加え、痛みの発生もしくは悪化を確認することができれば陽性と考えます。

 まあこれに関しては、検査する筋肉が作用する関節の可動域制限因子が骨の衝突である場合、正確な結果を得ることは難しいかもしれませんが、そのことを理解した上でやるのであれば私はアリだと考えます。

 とにかくこの場合の検査というのは、痛み(炎症)を起こしている構造に対して圧迫や牽引などの刺激を加え、それに伴う痛みの発生もしくは悪化を参考に鑑別していることを理解して下さい。またそうした検査は、必ず健側との比較で行われることに注意して下さい。

 さて、ここまででインピンジメント症候群の原因と、その検査・鑑別法をお話してきましたが、では、それに対してどのような治療ができるのでしょうか?

 まず肩関節の運動異常については、肩関節周辺筋のエクササイズや矯正などを用いた関節運動の正常化が有効です。また肩甲骨の運動異常には、もちろんその運動を行う筋肉のエクササイズも有効ですが、肩甲骨の場合、猫背に伴う前突位がその可動域を制限していることも多いため、胸椎部などの矯正をし、そうした姿勢を改善することも治療として考えるべきだと思います。

 インピンジメント症候群、細かく言えばキリがないですが、こんなところでなんとなくの概要はご理解いただけたのではないでしょうか?

 実際「肩の挙上に伴う痛み」を訴えられる方を診させていただきますと、その多くの方に姿勢の悪さ(猫背)が伴っているように思われます。ですので僕としましては、難しい治療を考える前に、まず姿勢を正しても良いのかな~、なんて思っています。是非お試し下さい。
   

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