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転倒などによって上がらなくなった腕(肩)は、すぐに改善することもある

転倒などによって上がらなくなった腕(肩)は、すぐに改善することもある 70代の女性(以下Tさん)が「腕(肩)が上らない」ことを主訴として私のところにおみえになりました。

 Tさんは半年前、リード?(散歩ひも)をもって犬の散歩をしていたところ、犬が急に走り出し、その結果転倒されたそうです。で、その時に痛みがあったのかは明確ではありませんが、それ以降、右腕が上がらなくなったということでした。
 腕が上がらない以外に問題(痛みなど)はないようです。

 まあTさんの場合は、半年前の転倒をきっかけに腕が上がらなくなったわけですから、その時に何かが起きたと考えるのが普通です。そうしたことから腕が上がらない原因を挙げてみますと…。

 まずは関節の問題。これは具体的に言えば亜脱臼(骨のズレ・関節のズレ)ですね。転倒によって関節が正しい状態からずれたため、本来の動きができず可動域制限を起こしたという感じです。

 ここでちょっと解剖学的な話なのですが、一般的に腕として見えている部分は自由上肢と言い、そこに上肢帯(鎖骨・肩甲骨)と言われる部分を加えて上肢と言っています。で、その上肢の重さというのが体重の6.5%に相当するとか。

 この6.5%が一般的な考えであるのかは私には分かりませんが、とにかくそれで考えてみますと、体重が50キロの人でしたらその6.5%で3.25㎏、70㎏の人でしたら4.55㎏が上肢(片側)の重さになるわけです。ということは身体を起こしている限り(机などの支えがない限り)肩には常に数キロの牽引力が働いていることになります。

 そのため肩の安定化に関与する筋肉に筋力低下でもあれば、肩(肩甲上腕関節)には亜脱臼(骨のズレ・関節のズレ)状態が起きる恐れがありあますし、実際そうした問題をおもちの方は結構おみえになります。

 さて次にTさんの腕が上がらない原因として考えられますのが筋肉の損傷です。
 これは転倒した時に腕の挙上に関与する筋肉を傷めたのではないかという話なのですが、具体的には肩(肩甲上腕関節)を安定させ、その運動を正常にするローテーターカフ筋rotator cuffや、腕を挙上する棘上筋(ローテーターカフの一つ)、三角筋、烏口腕筋、そして肩甲骨を上に広げてゆく(上方回旋させる)前鋸筋などの問題が挙げられるかと思います。

 ということで、私は上記の2つをとりあえずTさんにあるかもしれない問題だと考えました。
 本来でしたら問診によって患者様の話をお伺いし、それによって原因として考えられることを可能な限り挙げることが、診断ミスを防ぐことにつながるわけですから、神経の問題や筋肉の拘縮なども原因として考えるべきかもしれませんが、とにかく私の感覚もあり、上記の2つを原因として挙げたのでした。

転倒などによって上がらなくなった腕(肩)は、すぐに改善することもある そして始めたことが関節の可動域検査。患者様の腕を支え、その可動域(他動可動域)を確認しました。こうした場合、もちろん健側(問題のない側)と比べて何が違うのかを確認するわけですが、すると腕を上の方に動かす中で、ちょっとした引っ掛かり感があることに気付きました。

 亜脱臼(骨のズレ・関節のズレ)アリです。また、それを除けば関節に気になる動きはなく、その動きもちょっと緩いくらいであったため関節包や筋肉にも拘縮がないことがなんとなく確認できました。(関節包や筋肉の拘縮、特に関節包の拘縮は可動域制限の大きな因子となります)

 そして私がしたことは、もちろん専門分野である関節の矯正。
 その上でTさん自身に腕を上げていただき可動域を確認したところ、8~9割上がるところまで改善したのでした。

 これでほぼ明確になったことは、Tさんにあったのが関節の亜脱臼(骨のズレ・関節のズレ)であったということです。
 そして私はTさんの腕を100%まで挙げるべく、次の作業に移ったのでした。それが何かといいますと、背骨と肩甲骨に対するアプローチです。

 背骨に関しては、具体的に猫背(胸椎過剰後弯曲)の改善なのですが、猫背になりますと肩甲骨が前に出るかたち(前突位)になり、これが肩甲骨の運動(この場合は特に上方回旋)を制限し、結果的に肩の挙上を制限することになります。

 これは肩の挙上可動域を180度とした場合、その内60度分を肩甲骨の動き(上方回旋)が担っているということ(肩甲上腕リズムscapulo-humeral rhythm)に起因するのですが、Tさんにははっきりとした猫背があったため、肩甲骨の前突位から肩の挙上制限があるということで、背骨の矯正をし、肩甲骨が正しく動ける状態をつくったのでした。

 あと肩甲骨のアプローチの関しては、長期に渡り肩甲骨の前突位がある場合、肩甲骨が正しく開かなく(上方回旋しなく)なってしまうことがあります。これには肩甲骨の上方回旋を行う前鋸筋の機能低下が影響していると考えられ、それは両上肢を同時に挙上する際の肩甲骨の動きを比較することで確認できるのですが、Tさんにもそうした問題が確認できたため、前鋸筋の機能を回復するべくリハビリ(機能回復を目的とした運動)を行ったのでした。

転倒などによって上がらなくなった腕(肩)は、すぐに改善することもある と、ここまでして再び可動域を確認したのですが、この段階で半年間上らなかった腕は、健康な側と比べて全く問題なく、もっと言えば健康な側以上に挙がるようになっていたのでした。

 この方の場合、とりあえず一週間後に診せていただいたのですが、その時には可動域が多少制限された状態になっていました。ですので再び可動域の確認とその矯正などのアプローチをしたのですが、その更に一週間後に見せていただいた時には、問題はほぼなくなっていたのでした。

 転倒などによって上がらなくなった腕(肩)も、もっと言えば半年間上らなかった腕(肩)も、上がるようになる可能性がある、と言うお話でした。
   

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